「えっ、エレオノーラ様が? エレオノーラ様は、もう貴女が可愛くて可愛くてたまらないことは有名よ。貴女にめろめろで、貴女が泣いたらキスを浴びせかけて『かわいそうに!』と抱きしめそうなエレオノーラ様がねえ……よほどフェラーラ公妃として御苦労なさったのね」「私も、国が危機に瀕した時、母の様に国を守れる人になりたいと思って、泣き言を言わない様に頑張ってます」
おそらく、どの子よりもイザベラが母エレオノーラの思いを一番真剣に受け止め、ひたむきにそれに応えようとしたのであろう。
一層イザベラにのめり込み、全てを注ぎ込もうとするエレオノーラの凄まじい思いを感じ、叔母は圧倒された。
1483年、疎開先のモデナでイザベラは熱を出した。すると、それを聞きつけフランチェスコは、モデナに手紙とお見舞いの品を送ってきた。9歳の自分がお礼状の中で次の様な一節を書いたことを、イザベラは今でもはっきり覚えている。
「御手紙とプレゼントを見ました途端、私はすっかり病気が治ってしまいました。でも、私の病気がいつまでも良くならない様ならフランチェスコ様がモデナまでお見舞いに来て下さる、とお聞きして、私は、もう一度病気になりたいと思いました」
「ねえ、イザベラ」
思い出に浸っていたイザベラは、叔母の声に我に返った。
「毎年スキファノイア宮殿の近くに氷水のお店が並ぶの。何と言っても、私、あれが一番楽しみよ」
叔母はそう言って、スキファノイア宮殿の方角へ向かって歩き出した。