【前回記事を読む】もう彼は帰っただろう、と思って振り返った。その途端、無言でこちらを見つめている彼と目が合い、慌てて本に目を落としたが…

Ⅰ 少女

第2章 聖ジョルジョ祭

聖ジョルジョ祭の前日、モデナの叔母が2年ぶりにやって来た。

「まあ、ちょっと見ないうちにすっかり大きくなって。明日は案内してちょうだいね」

叔母にそう言われてイザベラはほっとした。

毎年聖ジョルジョ祭には母や妹のベアトリーチェと一緒に行くのだったが、そうすると必ず従姉妹たちが合流し大部隊になってしまうのだ。

「イザベラ、よかったわね。叔母様をちゃんと御案内するのよ」

「はい、お母様」

イザベラは、満面の笑顔で頷いた。

その夜はベッドに入ってからもなかなか眠れなかった。明日のことを考えると胸が熱くなった。

翌朝、イザベラは雨の音で目を覚ました。

急いで飛び起きて窓際に走って行くと、カーテンをかき分け外を見た。

「お祭りはどうなるのかしら」

空はなべ墨色に雲が垂れ込め、大粒の雨が音を立てて降っていた。プラタナスの木々が大きく揺れているのを見ると、風もかなりある様だ。

しかし、一方、お祭りの準備は着々と進んでいた。

沢山の人々がびしょ濡れになりながら、あちこちで小屋やテントを建てているのだ。風に翻るテントを力ずくで抑えつけている人や、材料が届かないのか手持無沙汰に雨の中でしゃがんでいる人もいる。もう出来上がっているテントも幾つかあった。木々には色とりどりの無数の造花が飾り付けられ、ちぎれそうなほど激しく風に翻っていた。

その時、母が入って来た。