「イザベラ、早くこの服を着て。今日のために作ったの。本当に、もう間に合わないかと思ったわ」
「まあ、なんて素敵なんでしょう」
純白のレースの服を見て、イザベラは思わずため息を漏らした。
「お母様、有難う」
「さあ、早く着て見せてちょうだい」
イザベラは侍女たちに手伝ってもらって着終えると、母の前に立った。
母は何も言わずに相好を崩した。
「叔母様をお待たせしてはいけないから、早く来てね」
母はそう言って出て行った。イザベラは急いで顔を洗い、歯を磨き、侍女に髪を結ってもらうと、鞠の様に階段を駈け下りて階下の食堂に走って行った。
その途端、食堂のテーブルに着いていた叔母も妹や弟も息を飲んだ。
純白のレースの服に身を包んだイザベラは、目の覚める様な美しさであった。
色は抜ける様に白く、大きな瞳は黒水晶の様に澄み渡り、豊かな髪は深い栗色をたたえていた。
聡明さと気品、そして、幼さ、無邪気さ、人の好さが入り混じった表情は、忘れ難い印象を残した。
イザベラは、あまり皆が眺めるので、顔を挙げることが出来なかった。
妹のベアトリーチェは14歳、弟のアルフォンソは13歳。
幼い弟たち、フェランテとイポリートはまだ寝ているらしかった。
父の姿が見えないが、野外劇場の設営に行っているのであろう。
朝食の間もイザベラは窓の外を見つめ続けた。
「まあ、だんだん小降りになってきましたね」
と叔母が言った。