父さんがすぐ気がつくほど水が少なくなっていたのです。慎ちゃんの膝小僧くらいしかありませんでした。それでも慎ちゃんたち兄弟妹は浅い水にひたって、「ヒッ、ヒッ」と顔を寄せてひそかに喜んでいました。
(こんなとき水かけっこでもできたらいいのになあ)
「だれにも見られないように、静かにしちょってよ……」
母さんから、そう念をおされていたのでがまんしました。
ちょろちょろと流れる水にひたりながら、(日本の友だちや親せきの人たちがこんなぼくたちの姿を見たらなんち言うんじゃろ、きっとええなあ、ってうらやましがるやろうな)うれしくてたまりません。
暖かい南国の国と言ってもやっぱり三月の水は冷たいのです。母さんと父さんはほんのちょっとカナルにつかったあと、
「寒くなったばい」
そう言うと、すぐにカナルから出て服を着てしまいました。
「えっ、もう出ると? もっといようよ」
口々にみんなでせがんだのに、
「カゼを引くといけんきね。また、今度来よう」
母さんの一声で、しぶしぶ三人ともカナルからあがって行きました。
(もうこんなこと、ないやろうな)予感は的中。家族みんなでカナルに入ったのはあとにも先にもやはりこのときだけでした。ドラム缶の内風呂が家にもできてしまったからです。
(父さんと母さんは、すっかりカナル風呂の楽しさを忘れてしまったんや)
残念で仕方がありませんでした。だいたい、「大人の今度」ってあてにならないよね。
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