はしたないと思ったがつい手が先に出る。吉兵衛がふくよかな顔に笑みを浮かべるのを見ながら、猛之進は掴んだ紙包みを懐に入れた。吉兵衛が帰ると直ぐに懐に入れた包みを開けてみるが、これでは今日明日の腹の足しにすればそれで終わりではないかと落胆した。
吝(しわ)い親爺だと猛之進は肩を落としたがそれほど気落ちしたわけではない。用心棒は当座のしのぎにはなる。首尾よくいけば十両の大金が懐に入るかもしれないのだ。
猛之進は立ち上がった。腰に手挟(たばさ)んでいる竹光を人が斬れる抜き身に代えなければ用心棒は務まらない。現金なもので先行きの手立てが見えれば宝刀を血に染める気など更々なかった。
まずは質屋に行き預けた刀を貰い受けてこなければ玉乃屋に顔を出すこともできないのだ。それにはこの郷則重との交換を意味する。二両で預けてある刀も鈍(なまく)らではない。
本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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