「ああ、そのことでしたら、大丈夫でございますよ。須田様お一人というわけではございませんから……」
「ん……誰ぞ、わしの他にも口を利いておるのだな」
「はい、さようでございます。盗賊というのは大概は多勢で押し寄せると言いますから、須田様お一人にご迷惑をおかけするというわけにはまいりません」
吉兵衛は猛之進一人だけでは信用できないとは言わず上手い言い方をした。
「さようか。うむ……ま、そうであろうな。して、その手間賃はどれほどなのだ」
「はい、一番肝心な話を先にしなければなりませんでしたな。押し込みがいつ来るのかは確かなことではございませんので、どのくらいの日にちを玉乃屋に詰めていただくことになるのかはわかりません。ですが……一日二分は出せると聞いております。あ……それから首尾よく防いで頂いた暁にはお一人様に十両の手当が出ます」
命が掛かっているわりには少しばかり安過ぎるのではないのかと思ったが、喉元にまで出掛かった言葉は躊躇わずに飲み込んだ。この際文句を言える立場ではないのだ。
「それで……玉乃屋にはいつから詰めることになるのだ」
「先方様ではなるべく早く来てもらいたいような口振りでしたが、須田様を入れお三方にも都合というものがございますから、明日の晩からでよろしゅうございますよ」
猛之進は承諾の返事をしながら自分の他に用心棒が二人いると聞いて安心した。吉兵衛はそう言ってから思い出したように懐に手を入れ、紙包みを取り出すと猛之進の前に置いた。
「ああ、それから……これは当座の費(つい)えとしてお使い下さい」
「おお、それはかたじけない」