真由が席を立ち、長澤さんの元へ行って彼を背後から抱き締め、頬にキスをした。

「こらこら、真由。後でいっぱい構ってやるから、席に戻って」

「うー。はーい」

何か、バカップルを見ているようだな……。

「亜紀ぃ、正幸さんは私のモノだからね!」

「もう、酔っ払ってるの? 何度も言わなくても分かってるよ。それに私にはちゃんと彼氏がいるでしょ?」

「そうだね、亜紀が彼氏を裏切る訳ないよね」

ズキンと胸が痛んだ。

私が裏切っているからではない。俊雄さんからの連絡がない事が『裏切り』ではないにしても、こんなに『不安』にさせる事が彼女に対しての誠意なのか、疑問に思えていたからだ。

「恋愛相談になら乗るよ?」

爽やかな笑顔で長澤さんが言う。

「いえ、彼とは上手くいっていますから大丈夫です」

「そりゃ残念。恋バナで盛り上がろうと思ってたんだけどなぁ。じゃあ、真面目に一周年を祝って、抱負とかでも言ってもらおうかな」

「えー? どーでも良くない?」

「真由はこれからお店をどうしたいとかいうのはないの?」

「ないよ~。私は正幸さんと一緒に働けるだけで幸せ!」

結局、お祝いってよりは、恋バナのようなもので真由と長澤さんが盛り上がり、早めのお開きとなった。真由は頬を赤らめながら、長澤さんと一緒に行ってしまった。もう変な電話が掛かってこない事を祈るだけだ。

次回更新は9月14日(日)、19時の予定です。

 

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