氷を色々に染め、物の形を作り、是を出す。味は至って甘く、口中に入ると忽ちに溶け、誠に美味なり。

是をアイスクリンといふ。是を製するには、氷を湯にて柔らかくなし、其の後、物の形に入れ、又氷の間へ入れておけば、氷の如くなるといふ。

尤も右の氷を溶かしたる時、生卵を入れざれば、再び凍らずといふ。その折、珈琲なる温かき飲料を口にす。ほろ苦く焦げ臭し。これを好むという異人の心持ちがまるで分からぬ。

閉口していると、河岸を変えて、カクテイルなる酒をご賞味致しませぬかと誘わる。断る理由もなく、徒然なるままに紅毛人の造りし酒を口中に含む。ミモザなる飲料なり。

みかん汁に、シャンペンなる泡酒を混ぜたものなり。甘く口当たり良く、何杯も重ねた後、記憶を失う。

誠に恥ずかしき次第なり。人前で泥酔するなぞ、友はおろか、侍の血を引く先祖達に合わす顔なし。誠に恥ずかしき次第なり。

鹿鳴館誕生の一年前に牛肉かよ、何やってんだじじい、やけにハイカラだな。日記を整理しながら、私は飲んでいたビールを吹き出しそうになった。

シャンパンもビールも炭酸が含まれている。私にはシャンパンはやはり敷居が高い。大体、ドン・ペリニヨンとは確か中世のフランスの修道士の筈で、シャンパンを作る事に生涯を捧げたそうだが、かなりの道楽者じゃないのか。

 

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