天狗面騒動から三カ月後のその年の九月二十七日午前。小忠太と道と晋作の三人は正装して威儀を正し、円政寺に入った。

住職は晋作元服を祝う口上を述べた上で、天狗面の前に三人を案内して言った。

「晋作は今日から一人前の大人として振る舞うように。父上殿は高杉家の家訓を元服の祝いとして伝えられよ」

住職は予め小忠太と打ち合わせしていた通りの台詞を述べて、元服の儀式を終えた。 目出度い節目の日を迎えて気持ちが高揚したのか、晋作は両目を大きく開いてキラキラと輝かせていた。

三人は家に帰ったその足で神棚に柏手を打って元服の儀式が終わったことを報告し、引き続き仏間の仏壇で先祖の霊に合掌した。

そして小忠太は晋作を居間に連れていき語った。

「晋作おめでとう。今日からおまえは一五〇石取り高杉家の後継者だ。わしにもし万が一の事態が起こったら、おまえがわしの跡を継ぐことになる。藩への届け出は五日後だがそれまでわしが高杉家の家訓を講義する。しっかり聞いて受け継いでくれ。

講義は裃を脱いでやる。一旦休憩を取って一時間後にここに来なさい」

小忠太はそう言って晋作を解放し、自分も裃を脱いだ。

晋作は隣の部屋で待っている母の前に行って、小忠太が言った台詞を繰り返して報告した。

一時間後の午前十時に父小忠太の前に出た晋作は、顔を赤らめ真剣な表情で講義に臨んだ。

 

👉『晋作に銭を持たすな』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】「もしもし、ある夫婦を別れさせて欲しいの」寝取っても寝取っても、奪えないのなら、と電話をかけた先は…

【注目記事】トイレから泣き声が聞こえて…ドアを開けたら、親友が裸で泣いていた。あの三人はもういなかった。服は遠くに投げ捨ててあった