第4章 脳梗塞の治療いろいろ

内科的治療

脳梗塞は内科的治療が主体ですが、発症からの時間によって治療内容が変わってきます。

◎超急性期治療

脳動脈が血栓で詰まると、その動脈が栄養を供給している領域の脳は時間が経つほどに傷害が進み、ついには神経細胞が死んで(壊死)、回復不能になります。そこで、脳の細胞が壊死に陥るまでに脳血管を詰まらせている血栓を溶かし、血流を再開させて脳の働きを取り戻そうというのが、超急性期「血栓溶解療法」です。

血栓を溶かす薬には、ウロキナーゼ(図1)とrt-PA(recombinant tissue-plasminogen activator:遺伝子組み換え組織プラスミノ ゲン・アクティベータ/活性化因子)(アルテプラーゼ)の2種類があります。

ウロキナーゼは、従来から使われている薬ですが、血栓を溶かす力はそれほど強くありません。カテーテルと呼ばれるごく細い管を脳の血管まで送り込み、閉塞部をカテーテルで通過させ、その奥で投与します。

[図1]ウロキナーゼによる超急性期血栓溶解療法を行った症例。60代女性。突然の意識障害、左片麻痺が出現し救急搬送。右中大脳動脈閉塞(脳血管撮影像:左図)、ウロキナーゼ36万単位を局所動注により再開通がえられた(同:中、右図)麻痺は残存したが、意識レベルは速やかに改善した

脳梗塞の最も理想的な治療は、「詰まった血管を再開通させて脳細胞を救うこと」ですが、「言うは易く行うは難し」で、かつては有効な治療法がなかなか見つかりませんでした。

ところが、rt-PAという血栓を溶かす薬剤(図2~3)を使うと、使わない場合と比べて、ほとんど後遺症なく自宅に帰ることができる割合が明らかに増えることが証明されました。発症から4.5時間以内に治療しなければいけないため、発症から遅くとも3.5時間(できれば3時間)以内の病院到着が必要です。早ければ早いほどよいことを強調しておきます。

[図2]CT画像と拡散強調MRI画像
rt-PA静注療法による超急性期血栓溶解療法を行った70歳男性症例。午後8時半頃カラオケ中に突然、言語障害が現れ、右手のマイクを落とした。救急来院。運動性失語(言語理解はできるが発語はできない)、右手足の軽い運動麻痺が認められた。CTでは異常所見なし。拡散強調MRIでは左前頭葉放線冠に梗塞を示唆する所見を認める

[図3]MRA画像と脳灌流画像
[図2]と同じ症例。MRAでは左中大脳動脈の描出不良(矢印)、PWIでは左大脳(前頭葉から頭頂葉)の血流低下、潅流遅延(矢印)を認める。rt-PA静注療法を開始し、投与後約1時間後より発語がみられ、翌日には症状はほぼ消失した