二.〝輪〟 の思い出

「ここに、お前たちの父上アルバートが十八年前の夏、スポーツの祭典に参加した記念に持ち帰った五色の〝輪〟がある。この五色の輪で、みなが世界のどの大陸に行くかを決めることにしよう」

王さまは、こう話すと玉座の前の机の上に置かれた箱に手を伸ばしました。箱にはユートピリッツ王国の紋章であるペガサスが描かれています。

王さまは箱をそっと開けると、中から、「青」、「黄」、「黒」、「緑」、そして「赤」の、顔の大きさほどの五つの輪を大切そうに取り出し、三人の王子と二人の王女に見せるのでした。

この五色の輪を見た瞬間、五人の顔が驚きに変わり、十の瞳は五つの輪にくぎ付けになりました。

と同時に、五人の頭の中には懐かしい父アルバートと母クリスティーナの記憶がよみがえってきました。三人の王子は目をまん丸にしてまばたき一つせず、二人の王女の目は思わずうるんでいるようでした。

今は亡きアルバートとクリスティーナは、五人の王子と王女たちの父親であり母親であると同時に、ユートピリッツ王国の皇太子と皇太子妃でした。

二人は、ユートピリッツの議会に出向いたり、軍隊の行進を先導したり、外国からのお客さまを晩餐会 (ばんさんかい)に招いたり、国内の音楽会をはじめたくさんの行事に出席したり、親のない子どもたちの施設を訪問したりと、毎日忙しく王国の大切な仕事を務めていました。

ですから、アルバートとクリスティーナが、フィリップをはじめ五人の子どもたちと一緒に過ごす時間はとても少なかったのです。

 

👉『二十世紀のおとぎ話』連載記事一覧はこちら

アラフィフでも"燃えるような恋愛"をする人たち:50代のリアルに刺さる物語3選

【戦争体験を引き継ぐ】戦中から戦後まで、当時の情景が甦る小説3選