【前回の記事を読む】「大切なものを、この戦争から守ることができなかった。そこで私は…」王さまが五人の顔を一人ずつ見つめ、続けた言葉は…
二.〝輪〟 の思い出
しかし、その少ない時間の中で、アルバートとクリスティーナは、親子が一緒になって楽しく過ごせる時間を、それはそれは大切にしていました。 第一王子のフィリップは、夜眠りにつく前にお母さんから本を読んでもらうのが一番の楽しみでした。
誰の好きな本を読んでもらうのか、いつも五色の〝輪〟で決めていました。
例えば、今夜好きな本を読んでもらえるのは、「青」の輪を選んだ人だと五人でそう決めると、五つの輪を箱の中に入れてそれを大きな布でおおい隠します。そして、五人が同時に布の下から箱の中に手を伸ばして、いっせいに輪を取り出すのです。そう、五色の輪を使った「くじ引き」です。
青の輪を選んだ者は、その輪を高くかざして大はしゃぎ。自分の好きな本を母親のクリスティーナに読んでもらいます。もちろん、その夜は五人ともクリスティーナの読み聞かせに夢中になるのでした。
第二王子のエリックは、お父さんの運転する車に乗って、王宮の広い庭園(ていえん)をドライブするのが一番の楽しみでした。
車の特等席(とくとうせき)は、運転手の隣の席。そう、父親であるアルバートに一番近い席です。ここに誰が座るのか、これも五色の輪のくじ引きで決めていました。
一番近い席に座れた時は、アルバートの動きに合わせてハンドルを回転させたり、ギヤのシフトレバーを動かしたり、運転する真似(まね)をして楽しんだものでした。エリックは、まるで自分が車を運転しているような気分になるのが好きだったのです。
第一王女のアンジェラは、ポニー(小型の馬)に乗るのが一番の楽しみでした。
誰が最初に乗るのか、これも五色の輪のくじ引きで決めていました。でも、アンジェラは、最初に乗れなくても一番長く乗っていられた方がいいと思っていました。
『将来は、お父さまのような馬術競技(ばじゅつきょうぎ)の選手になりたいなぁ』などと考えながら、風を受けて走るのが大好きでした。活動的なアンジェラですから、できればもっと大きな馬に乗りたいと思っていました。
王宮の広い庭園のドライブやポニーの乗馬から帰ると、いつも楽しいおやつが待っていました。
おやつは母親のクリスティーナが作るスイーツです。
第二王女のカトリーヌは、このスイーツを最初に味見するのが一番の楽しみでした。