特に大好きだったスイーツは、アップルパイ。決して積極的でもない、どちらかといえばおとなしいカトリーヌでしたが、広い食堂に入って甘酸っぱい匂いがすると真っ先に母親のもとに走っていったものです。

そして、自分が五色の輪のくじ引きで最初に味見ができるように願いながら、みなと一緒に輪を引いたのでした。

第三王子のエリオットは、お父さんにいろいろ質問をするのが一番の楽しみでした。誰が最初に聞きたいことを質問できるのか、これも五色の輪のくじ引きで決めていました。

ある晴れた日に王宮の庭園をみなで散歩していた時のことです。この日もお父さんへの質問をすることを五人は約束していました。エリオットは、いつもは雲に隠れている山が、遠くにはっきりと見えていることに気が付いていました。

ですから、頂上に雪の積もったこのひときわ高い山の名前を知りたいと思い、最初に質問できたらと期待していました。

しかし、五色の輪のくじ引きで最初に質問できたのは、第二王子のエリックでした。しかも、こともあろうにエリックはこう質問するではありませんか。

「お父さん、あのひときわ高い山の名前は何というのですか? 誰か登ったことのある人はいるのですか?」

「あの山が見えるのは、本当に珍しいなぁ。エリック、あの山の名前は『モンゼウス』。神の宿る山という意味だ。標高(ひょうこう)四千七百メートル。ユートピリッツで一番高い山だ。多くの登山家が挑戦しているが、まだ頂上まで登った者はいない。いつかあの山の話をお前に聞かせてやろう」

第三王子のエリオットは、ひときわ高い山の名前を先にエリックに聞かれてしまい、とても残念に思い悲しい気持ちになりました。

この日の輪のくじ引きでは、最後になってしまったので、花の名前も、虫の名前も、川で跳ねる魚のことも、知りたいと思っていたことをみんなに先に聞かれてしまいました。

エリオットが何を質問しようかと迷っていると、ふと川に架かる橋が目に入りました。王宮の中にある橋の下側は、すべてがアーチ型つまり輪を半分にした半円形をしていて、「黒い石」で造られています。

 

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