「実(げ)に」
高明、千晴は、頷き質した。
「やはり其の方も、斯様に、思うか?」
「実に。多分皆様の設(しつら)えは、大和のモノと推察いたします。しかし個人的に思うのは、大和のものより此処、備前の方が、良質の鉄と炭が出ると思います。後は、設える職人の腕、其れと使うお方の鍛錬次第でございます」
マムシの声には、悪意は無く。しかし、少し笑って居る様にも思えた。
彼は、自身の実力を解って貰える人物が、目の前に居る事が、嬉しかった。
「三太夫」
マムシは久々に実名を呼ばれた。
「其の方に、設えを依頼するとして如何程所望じゃ」
千晴は、隠岐へ流される身乍ら、マムシの持つ小太刀と同じ、太刀を所望した。
「然様でございますね。私が手を掛けて、一からとなると、最低半年か一年は、少なくともお時間を頂きとう御座いまする」
マムシは、それでも、失敗する可能性は、予期していた。良質の玉鋼が、入手出来なければ、同じ刀を作る事は、不可能であった。
しかし高明は、千晴を怒らせるかもしれないし、藤原北家の藤原実頼を激怒させるかも知れない、もっと別の事を考えていた。荘園の司で実頼の郎党である地頭で司である藤原某に向かいこう言い放った。
「是奴等を儂にくれぬか?」
此れは依頼というより、力関係や地位を考えると“命令”に近かった。
結局、都で選別(に時間が掛かった)された若い数名の検非違使の到着を待って、藤原千晴は、隠岐へと向かい、実質的な警護役として藤原某は、マムシ以外の自身の郎党をその警護に付けざるを得なかった。しかし、それはマムシを同道させるより、遥かに費用が掛かる事でもあった。