「私が陽キャ? それは間違った診断だなあ。矢崎くんは陰キャではないと思うよ? 陰キャな人は初日から友達できないと思うし、レディーをいじったりしないからね」
名探偵が犯人の正体に行き着いてそれを得意げに話すように、彼女はわざとらしく人差し指を顔の前で立てている。
「それは小花さんが失礼なこと言うからでしょ? こう見えて俺はジェントルマンだって自負はある」
「かもね、知らんけど! あ、あかりでいいよ、呼び方。園芸委員同盟のよしみで、フランクにいこう! 私も颯斗くんって呼ぶから」
僕はジェントルマン。自虐ネタを披露したつもりだったのに、あしらわれたことに少し腹は立ったが、今は何も言わないでおく。
「どんな同盟なのそれは……。まあいいけど。そういえば、小花さ……あかりは部活とかは入らないの?」
「わ! そういうことはすんなり受け入れてくれるんだ! 嬉しいなあ。部活は入らないつもりだよ。私、お店の手伝いはこのまま続けたいからさ」
「人気者の君は、周りが放っておかないと思うけどなあ」
「え! 私が人気者ってこと? ってことは、颯斗くんは私のこと可愛いって思っているのかな?」
急に興奮した面持ちで僕の顔に接近する彼女に、不覚にも僕はドキッとしてしまった。「なんでそうなるの。単純に君は周りから人気がありそうだから、入部の誘いがたくさんくるんじゃない?ってこと」
期待した返答じゃなかったのか、彼女はあからさまに落ち込んだ表情を見せる。
「少しはお世辞くらい言ってくれてもいいじゃん! でも入らないよ。颯斗くんは? 何も入らないの?」
しくじった。今、最も追求されたくないことなのに、自分からその穴に飛び込んでしまった。答えに窮していると、何かを感じたのか彼女が僕の思考に言葉を挟んだ。
「あ、それかあれ? 園芸委員こそ俺の生きる道的な? かっこいいねえ」
「なんでだ。委員会に全てを捧げる系男子学生、少数派すぎるでしょ」
「ウケる! またナイスツッコミ!」 助かった。彼女が会話の転轍機を押してくれたことに感謝した。もちろん、彼女にそのような意識はなかったと思うけれど、彼女の持ち前の会話力に救われた。
しかし今になって気づいた。口では軽い言葉を放ちながら、彼女の手元の作業は見事と言うほかない。根を傷つけないように花を優しく持ち上げ、シャベルで土を掘り起こし、移植していく。一連の流れに無駄はなく、花屋での手伝いの本気度合いが窺えた。
次回更新は7月30日(水)、21時の予定です。