【前回の記事を読む】立候補の瞬間、クラス中のざわめきが僕の体をチクチクと刺した。もう一人の立候補者は、既にクラスの人気者になった彼女…

アガパンサス

和也は学級委員長としての業務が少しあるようなので、さっさとここから退散するのが吉と僕は考えた。学生鞄を乱暴に肩にかけ、出来立てほやほやの友達に「お先に」と言って教室を出ようとしたところを、柳田先生に呼び止められた。

「ああ矢崎! 早速で悪いんだけど、園芸委員として仕事を頼みたいんだ。ちょっと来てくれないか?」

「あ、はい」

予想外の展開だった。園芸委員の仕事が学校生活の初日にあるなんて、誰が予想できるだろう。

「小花も、申し訳ないが大丈夫か?」

「もちろんです!」

園芸委員なんて、一年に数回くらいしかやることはないだろうとたかを括っていたのに、見当違いも甚だしかった。

「本当にすまないな二人とも。頼みなんだけど、昨日の入学式で講堂の入り口にたくさん花が飾られていただろ? 式典が終わったらその花たちを花壇に植え直すのが、昔から大安高校の慣わしなんだ。

量がたくさんだから結構な重労働で悪いけど、この後頼めるかな? 一学年の他の園芸委員もいるし、一、二時間もあれば終わると思うから」

「はい! 小花あかり、しっかり務めを果たさせていただきます!」

先生と話す時は、いつもよりハイテンションな小花あかり。変なやつ。

「矢崎も、頑張ります……」

「ありがとう! 普通、どの学校も園芸委員はそんなに活動しないと思うけど、うちはやることが盛りだくさんだから、頼むね」

「じゃあ矢崎くん! 支度ができたら校門で待ち合わせね! 私、職員室に軽く寄ってから行くから!」

小花あかりの言いなりになることは少し癪に触ったが、僕は頷く以外の選択肢を持ち得なかった。職員室に小走りで向かう彼女の背中を見送ってから、僕も支度を始める。卒然と和也が僕の肩に腕を乗せてきた。

「颯斗、いいか? お前絶対に失礼なこと言うなよ? 喧嘩しても今回は助けてやれないからな、絶対だぞ?」

「わかってるよ! 俺だって好きで喧嘩してるわけじゃない。てか喧嘩ですらない。それより、早く行かなくていいのか? 学級委員長様?」

「皆木! ほら行くぞ!」

 柳田先生の声の槍が背に刺さったかのように、和也はびくついた。

「あ、ああやべっ! はい、今行きます! 颯斗! 絶対気をつけろよ!」

仏頂面で和也に手を振り、僕は校門に向かった。