多くの企業がビジネス規模を大きくしたいと考えるのですべての層を取り込むことを目指しますが、ラガードまでを顧客とすることで、事業内容によっては、自社が作ったサービス、スキームを悪用する人たちも現れる等、事業の様相、取り巻く環境が異なってきます。新たな法整備に発展する場合もあります。

私が属したNTTドコモも、幾度となくケータイ不正利用者への対応を行っていますし、大きく育った消費者向けサービスは皆体験していることです。これは大企業が行う事業ならではの特性と言えるでしょう。

スタートアップとして事業を始めたときは、ポジティブな要素を強調してくれる一部のファンだけが強く愛してくれている状態だから、聞こえてくるのは共感の声ばかりです。企業側も心を躍らせ、ファンの期待に最大限応えようと夢中でサービスを作り上げていきます。楽しい時間であり、スタートアップの魅力のひとつでしょう。

ただ、事業が成功すればするほどに、この時間は長く続きません。サービスが次第に広まるにつれて、顧客の数や属性が大きく増えていき、批判の声も届くようになります。そしていつからか、遅れて顧客となったラガードたちの反応に神経を尖らせ、さらには社会の影響まで配慮しなくてはならなくなるのです。

こうして、一部のファンだけに愛された尖りが徐々に角度を失い始め、気がつけばできるだけ多くの人が好む、丸いものが出来上がるようになります。

それを洗練されたと見なすか、大衆迎合と否定的に見なすかは見方次第ですが、事業を大きくしたいと願うのならば、選択肢が他にありません。つまらない話に聞こえるかもしれませんが、これが企業における正しく真っ当な成長プロセスです。

この流れを踏まえ、大企業は今一度、自分たちが立つステージを確認する必要があります。

大企業とは、正しい成長プロセスを突き進みラガードまでを対象にしている社会的影響の強い企業です。だからこそ、意思決定に際して、慎重な態度が好まれるのは当然です。

イノベーター、アーリーアダプターだけを顧客に持つスタートアップにおいて、すぐに動くことは「正」ですが、社会は大企業が思いつきで意思決定し、自分たちが振り回されることを望んでいませんし、そうならない仕掛けを張り巡らすことにしています。また、スタートアップは、尖りなしでは埋もれてしまい生き残れませんが、大企業は尖りではなく丸みを強調することが「正」になります。

このように、大企業は一部のファンとともにひたすらに前に進めばいいスタートアップとはまったく異なるステージに立っているのです。まずは、この理解の共有から始めていきます。