【前回の記事を読む】「この犬を連れた青年が事故に遭って、今、U総合病院に救急搬送されました」事故に遭ったのは私の息子だった

第一章 事故

「はい?」

「お母様、それからお父様も。事故の状況を説明させていただければと思います」

幹雄がゆっくりうなずいた。

「新並木通り、ご存知ですよね。ご自宅の近くです。見通しのいい直線道路。あの、イチョウ並木の途切れるところに、信号のない交差点があります。そのあたりで、バイクとバイクが接触する事故が発生しました。ご子息は、たまたまそばを歩いていて、事故に巻き込まれました」

「通りを横断していた……ということですか?」

まさ子は、透にも落ち度があったのかどうかが気がかりだった。

「いいえ、歩道にいたようです。近くで目撃された方がいらっしゃいました。その方のお話によると、二台のバイクが猛スピードで、競い合うようにして爆走し、その交差点付近で一台がもう一台のバイクを追い越そうとして接触、大破しました。

その拍子にドライバーの一人がバイクから大きく歩道の方に飛ばされたとのことです。ご子息は、飛んできたドライバーの体に当たってはね飛ばされ、歩道と駐車場の境目にある縁石に頭を強打し、出血しました。

その目撃者──女性ですが、彼女が救急車も呼んでくださいました。……容体が落ち着かれましたら、ぜひ一度、お礼をおっしゃっていただければと思います。容体が落ち着かれたらで結構です。その……搬送した救急隊員の話では、脳挫傷で……それもかなりの重症、ということで……」

まさ子には、「重症」という言葉が頭の中で何度も何度もぐるぐる回った。警官はその様子を注意深く観察しながら言葉を継いだ。

「今はまず、ご子息が回復されることが最優先ですので、他のことはまた追々」

すると、それまで黙っていた幹雄が話を始めた。

「では、うちの息子には、全く過失はないんですね? 歩道を歩いていて巻き込まれた、と」

「はい」

「それで、バイクの運転手は?」

幹雄の問いに、警官が少し顔を曇らせたような気がして、まさ子が尋ねる。

「お亡くなりに?」

「いえ。一人は打撲と脱臼と火傷、もう一人──ご子息と接触した方は、歩道の植え込みに運良く落ちて、かすり傷程度です」

「……」