「まことに、なんと申し上げれば良いのか……」
警官はまさ子と幹雄の心中を察し、そう言葉を絞り出すと、うつむいて目をつぶった。
バタバタとせっかちに廊下を歩く音がした。薄水色のキャップを着け、白衣を着た大柄なドクターである。救急患者が多かったのか、疲れた顔をしている。ナースを一人連れていた。
「どの患者? あ、これか」
あまりにぞんざいな言いように、まさ子は声も出ない。
「ご両親です」
警官の宮城がたしなめるようにしてまさ子たちの存在を教える。
「あ、今晩の救急担当の松井です。脳挫傷みたいですね。でもお母さん、バイク乗るならヘルメットくらいさせなくちゃ。二人乗り? 後ろの方が飛ばされるんだよね。友達だから恨みっこなしだろうけど。大体、道路でチキンレースとか、事故になって当然でしょう」
まさ子は自分の体が内側から熱くなるのを感じた。
「違います」
「え?」
「うちの子はバイクなんか乗ってません! 犬の散歩に行っただけです!」
「……友達じゃないの?」
「城田さんは!」
警官の宮城の低い声が響いた。
「この患者さんは、歩道を歩いていて巻き込まれた方です」
松井医師は、バツが悪そうに頭を搔いて、ナースに責任をなすりつけた。
「さっきヘルメット持った友人が来たって言ったじゃないか!」
そしてまさ子たちの方に向き直った。
「すみませんね、情報が錯綜していて。とにかく、手術します。ここでナースの指示を待ってください。それから。先に言っておきますが、あまり期待しないでくださいよ。脳をやられてるんで」
そう言い放つと、松井は一人で手術室に入っていった。