「何か見える?」
「いや、暗くて何も。」
振り返ると、咲元は足取り軽く進み始めた。
「昼間は魚が見えるんだけど。」
遊園地や港のきらめきを周りながら、自然に足はホテルへと向いていた。
「いい?」
紫も抵抗なく頷いた。言葉少なに二人は手を繋いだ。
スムーズに部屋へと入り、優しく服を脱がせながらキスを交わす。髪を撫で、身体を撫で、そっとベッドへ寝かす。その一つ一つの仕草は手慣れており、心地よかった。シャワーをあびたかったが、そんな感じでもない。さらりと下着姿にされた。
咲元は手早くルームライトを仄暗くすると、自身も脱いだ。紫はぼんやりとされるがままになっていたが、うっとりしていたわけでもない。どこか冷静に観察していた。なんとなく、我が身に起こっていることではないような…間違いないなく自身のことなのだが。
すっかり裸になると、胸と陰部を愛撫してから、あっさりと入ってきた。咲元らしいというか、しつこくない。セックスまで爽やかだ。まあ相手が私だから…。
紫は初日の仙台の部屋で聞いた情熱を思い出さずにいられなかった。あんな真似、できっこない。
咲元はシャワーを浴びるとビールを飲みながら身支度を調え始めた。何故だろう、セックスしたばかりだと言うのに、イラついているようだった。
次回更新は8月1日(金)、11時の予定です。