あの彼女のことを聞きたかったが、話題に出せずにいた。そういう話になれば自分の恋愛歴も語ることになる。ろくな経験のない自分と、豊富そうな咲元の間にはしにくかった。その話題は避けて家族や学生時代の話から、仕事の話に移った。

「実は早速行った面接、2つあるんだけど一つ受かったの。」

「そうなの、早いね。良かった、安心だね。」

本当に、思ったより早く決まったものだ。まあ一つは落ちたのだけど、こんなにスムーズに決まるとは紫も驚きだった。そしてそれは、きっと自分がウキウキしているからなんだろうと、漠然と感じていた。

前職場でも実家でも、私は明るい子じゃなかった。学校ではそれなりに普通だったと思うが、そういう雰囲気が、大事なのかも知れない、とぼんやりと思いながら、紫は咲元との会話を楽しんだ。さすが営業ということだろう、トークが上手い。かかさない笑顔も心地よい。自分も明るい咲元と話してて惹かれたのだから、こういうところ、見習わないと…。

「じゃあ次に行こうか。」

夕闇が広がり、すぐ脇は海という橋を歩いた。潮の香りが、どうしても松島を思い出させる。咲元はゆっくりとはしっこに寄り、下の海を覗いた。

「同じ海でも違う気がするよね。」

「そうね、単に街中だからって気もするけど…。繋がってるのよね。」

紫は咲元の背中を見ながら、同じことを考えていたんだと、ちょっと嬉しかった。