【前回記事を読む】「あんたはとうに賞味期限切れだろ? ちょろかったよ、俺のような男がたまたま相手してやっただけで自惚れるなよ」

冬隣

何年ぶりかでデートして、キスして、求められて、抱きしめられて。女として正当に扱って貰えて、嬉しかった。デートまでのやり取りも楽しかったし、確かに浮かれていた。しかしその実、どこか疑い続けている自分もいたのは確かだ。なんせ目の前で彼女と揉めていたんだから。本当に、咲元の言う通り、いい思いをただでさせてもらった結果になったわけだ。

これで家を知られていたり、お金を騙し取られたりしていたら最悪だったが、正直、思い出として悪くない日々だった。あの暴言と般若のような顔はなかなか衝撃だったが、ドアから出ていく直前に振り向いて見せた表情は、少しばかり複雑そうで、可愛げがあった。言い過ぎた、と思ったのだろうか。

ホテルを出て家路につく。紫は電車から先ほど出たばかりのホテルを見つめた。咲元と愛し合った、あのホテル。ネオンがちらつく。

家に帰って風呂に入ると、体のそこかしこに男に愛された跡があった。股には鈍い痛みがある。

なんてことはない。こんなこと、別にどうということはない。

操を立てるべき相手がいるわけでもないんだ。ちょっとした、これがアバンチュールというやつか。何年ぶりかのセックスは、そこまで良かったとか快楽とかいうわけでもないが、潤いのような、自分が女としての自信のようなものを与えてくれたのは確かだった。

別に自分を大事にしていないわけでもない。危険信号がちらついていたとは言え、咲元に惹かれて、好意をもって抱かれたのだ。

家族にも特に愛された覚えはない。一人暮らしをすれば女なら誰でも良かったような彼しかできず、短い付き合いしか知らない。それも一昔も前のことで、大した学校も出られず、大した仕事もできない、いつも軽く扱われる自分を、咲元は良くも悪くも正面から向き合って、付き合ってくれたのだ。都合の良い相手にすぎなかったとしても、だ。優しく見つめて女として扱ってくれて、喜んだのは事実だ。

「ふう…」