風呂上がり、紫はベランダを開けた。空気は冷たく、冬の気配がありありとあった。今が一番いい季節だ。仙台より一足遅く、冬がやって来る。
「絵美子に怒られるかな…」
いや、きっと姉のように、彼女は笑ってくれるだろう。
たとえ暇潰しのつまみ食いでも、女としての自信を与えてもらえた。運命の恋なんて、そうそう転がっているものではない。
そう、私自身が変わらなければならないのは、頭のどこかでわかっていながらも、なかなか向き合えない問題だった。そうだ、兄夫婦にもちゃんと電話しておめでとうと伝えよう。
さあ、私のことを誰も知らない場所で、一から始めよう。ラインが来た。咲元からだった。
「これで最後、もうブロックするよ。ひどいことを言って悪かった。八つ当たりだった。反省するよ。傷つけてすまなかった。君が素直に俺に好意を示してくれていたことが嬉しくて調子に乗った。彼女に対する当てつけだった。悪かった。ありがとう。楽しかったのは本当だ、可愛いかったよ。さよなら」
というものだった。どうやら混乱が収まって恥じているらしい。紫は無感動にそれを読んだが、どこかほっとした。咲元はワルではなかった、ちょっと魔が差しただけなんだ。
返事は書かなかった。もう、終わったことだ。優しくしてくれて、自信をくれてありがとう、そう言いたかったがもういい。こっそり撮った咲元の写メは、あの指輪を海に捨てているのであろう、橋の上での後ろ姿。大丈夫、明日から私は新しい生活を、始めるんだ。写メを消した。
本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。