【前回記事を読む】「いい?」と聞かれ、抵抗なく頷いた。言葉少なに手を繋いだ二人は部屋に入り、優しく…
冬隣
「もう帰るの?」
咲元がシャワーを浴びている間、紫はベッドで携帯を見ていた。最中に届いたメールは、辞めたブラック会社の同僚からだった。内容は相変わらずのモラハラ三昧に対する文句だったが、紫にはもう過去のことだ。携帯を閉じて、咲元を見た。すると今まで見たことのない不機嫌な顔をしていた。
急に、私何かしたかしら? と不安になった。携帯を見たから?
「ああ、悪いけど…」
「どうかしたの? 何か…」
紫がおろおろと尋ねると咲元はカチンときたように言った。
「どうかしたって? 君のほうがどうかしてる」
「え…?」
「こんなに簡単にホテルについてきておきながら、なんでやる気なしなわけ? 俺は君に買われたわけでもなければ、弱味を握ってるわけでもない。嫌ならそう言えばいいだろ? 無理言う気なんてなかったのに」
セックスがつまらなかったのか。紫は焦って弁明した。
「ごめんなさい…私、別に嫌だったわけじゃないの。ただ、その…久々すぎて。ちょっと…余裕がなかったと言うか…」
「この部屋に来てからずっと上の空だったな? どうせあの女のことだろ? 気になったのは。まあそうだよな、あんた隣にいたんだ、聞こえてたに決まってるよな。ああ、今日のあんたはまるであの時の俺だ。あの夜の彼女は、まるで娼婦のようだった。最後なんだからもっともっとと。勝手にやってろ、そう思ってたんだろ?」
紫は思わず赤面した。
「そういうわけじゃ…。ただ…」
「確かに俺は仕事にかまけて彼女を大事にしなかったさ。だからって他の男と出来ておきながら、やっぱり別れたくないだの謝れだの、ふざけてるだろ? 離婚なんだ」
咲元は興奮して一気にまくしたて始めた。もう止められないようだった。