「…まあ、俺もそれなりに楽しかったのは本当だ。たまにはおままごとも悪くなかったぜ、長くは、無理だけどな。あばよ」
ドアが閉じ、ロックがかかり、もう会うことはないとハッキリしたことで、やっと紫は息をつけた。
「ふう…」
ぐったりと枕に身体を預けると、紫はため息をついた。…そこまでショックだったわけでも、落ち込んでいるわけでもない。チェックアウトまでまだ少しある。ギリギリまでのんびりしよう。冷蔵庫からコーヒーを取り出した。喉がカラカラだ。
新しい下着とネイル代だけで済んで良かった。無職の自分には痛くないわけではないが、新しい職場が決まったことが救いだ。紫は汗をかいている自分に気づいた。
「やれやれ…」
何故か割と冷静だった。そうなのだ。本当に、咲元の言った通りなのだ。紫は苦笑いした。
「最後は最低だったけど…」
そう、悪くない体験を、させてもらったんだ。
次回更新は8月8日(金)、11時の予定です。