「離婚だったんだよ、たった2年の結婚生活だった。思い出旅行なんていいもんじゃない。彼女の実家が仙台で、最後の挨拶にいっただけだ。フェリーで指輪を捨てようと思ったけど、あっちの海に捨てるのがなんだか嫌で、君を利用して横浜の海に捨てたかった。プロポーズした場所が横浜だから。一人でくる気にはなれなかったんだ。

離婚事態は円満だったさ。俺が家庭を全く顧みなかったから、妻が他の男を好きになったのは仕方ないというわけさ。裁判もせず、平和に折半で決着したんだ。

なのに、他に男がいるのに、彼女は最後に俺と張り切って寝たんだ。先に俺を裏切り、今の男も裏切ったんだ。君が俺に好意を持ってくれている様子が、何故だかまるで…妻が今の男と付き合っていく過程を見せつけられているような気がしたんだ。君は関係ないのに、妻と全然違うのに、悪かったよ」

一息つくと、勢いよく続けた。

「キャバクラくらい仕事でいくさ、営業なんだから。それが浮気か? 納得できないけど、もう他の男に気持ちがいってる彼女と揉めるのも嫌だった。ちゃんと向き合わなかったと言われれば、確かにそうだろう。でも、俺も他の女を抱かなければ収まらなかったんだ。君の気持ちを考えてなかったな。妻にもそう言われたんだ、そう言えば。

ははっ、でも俺は本当にただ、仕事に熱中していただけなんだ」

残ったビールを飲み干し、また続けた。

「あんたはとうに賞味期限切れだろ? ちょろかったよ、俺のような男がたまたま相手してやっただけで自惚れるなよ。良かったな、いい思い出来て。その対価を貰いたいってだけだろ、何が悪いんだ?」

咲元は口汚く罵り続けた。柔和な顔は般若のように歪み、赤い。何とか紫を傷つけようとむきになっているようだ。紫はぼんやりと咲元を見つめていた。

「単に目の前にいたから、枯れてたあんたに水をやったのさ。ただそれだけだ。それでもあんたも最初は警戒してたろ? だから純愛ゲームに付き合ってやったんだ。楽しかったろ?」

言うだけ言うと、咲元は素早く身なりを整えてサッと背を向けてドアへ移動した。そして振り返って、こう言った。