【前回記事を読む】安物で囲まれた我が家に帰り、家事をしていたら夢から覚めたような気もした。しかし夢ではない証に、携帯を手放せなかった

冬隣

「紫!」

待ち合わせのカフェに先に来ていた友人は、快活に手を振った。大学時代から続いている唯一の親友だ。

「絵美子、お待たせ」

席に着き、注文を済ませると早速バッグからお土産を取り出した。

「これ、仙台土産よ」

絵美子はじっと紫を見つめながら受け取った。

「楽しかったみたいね? いいこと、あったんでしょ」

さすが長年の友、お見通しだ。

「あ、うん…。まあ、ね」

顔が赤らむのを感じた。

「パッと見た時から、なんか明るいなと思ったよ。でもブラック会社を辞めてストレスがなくなったせいだと思った。それだけじゃないみたいね? さあ話して」

キッパリ促され、紫は洗いざらい打ち明けたのだった。

「ふーん…」

絵美子の反応は微妙だった。それはそうだろう。なんせ他の女性と旅行に来ていた男性に浮かれているのだから。

「それさ、本当に別れたの?」

そう思うのも当然だし、紫自身もそこは引っかかっていた。もし本当に別れていたとしても、バトンタッチで目の前にいたというだけで…。