「それを会った時確かめてみたほうがいい、独身ならまあ、なんでもありよねえ。でもさ、あんたから恋バナ聞くの久しぶりだし、歓迎するよ。ほら、あんたの初めての彼、あいつ今はすっかり太ったらしいよ。子供二人いるんだって」

「本当?」

彼なんてもんじゃなかったが、初めての相手はなかなかモテる人だった。単なる暇潰しに数日紫に付き合ってくれただけで、二回寝たらそれきりにされたのだった。

それでも自分で好意を持った相手だ、傷つきはしても後悔はしなかった。

当時の紫も恋に恋していただけなのを自覚していたから、ほんの数回でも付き合ってもらって気が済んでいた相手だった。

二人目は、初めて出来た彼氏らしい彼氏だったが、良かったのは最初だけ。正直、たまたま紫が落とせそうで特に好きというわけでもなく、彼女が欲しかっただけだろう。

そして紫もそこまで好きだったわけでもない。半年かそこらで就職活動だの卒論だので、忙しなくなると自然と別れることになったが、そこまで悲しくもなかった。

紫の恋愛遍歴はこんなものしかなかった。その後特に気になる人とかもいなかった。そう言えば、不倫のお誘いは20代の頃はあるにはあったが…。

そういう意味では咲元が一番好感も期待も大きい。

「上手く行くといいね」

絵美子はそう言ってくれたが、どうも怪しい、という顔をしていた。ケチをつけても仕方ないが、用心はしたほうがいい、でもデートは楽しんで!とアドバイスをくれた。

「紫をこんな笑顔にしてくれた人だもの、きっといい人よね」

そう、そう信じたいものだ。

一週間後の約束の日、約束の場所で紫は気合いを入れすぎない程度におしゃれして待っていた。このウキウキドキドキを、今日一日じっくりと味わいたい。

次回更新は7月25日(金)、11時の予定です。

 

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