【前回記事を読む】彼との幸せを願ってはいけない…想いを振り払った。なのに、振り返ると彼が立っていた、娘を連れて…

花の棘

「花と野菜は同じってこともないでしょう」

孝介の声は歯切れが悪い。

よし子は聞かれたくはないのだろうと、若い人の方へ回った。

「あれ、およしさん、指に絆創膏なんか貼って、切ったの?」

「料理のうまい人が切るわけないだろ」

「じゃあ、噛まれたんだ」

「すっぽんかよ」

「お前も色気がないなあ」

「棘が刺さったのよ、あのお花の棘」

よし子が指さしたところには紫や白い小花が野趣の風情で活けられた篭があった。

「あっ! あの花、国道の花屋で買ったんでしょ。主任の奥さんが居るんだ」 

「何言ってんだよ、お前酔っぱらったんだよ!」 

「気持ちが棘に乗り移ったんだなあ」

「やめろ! やめろ!」

「知りもしないこと言うな!」

「いや知ってるよ、俺、見たもん。美人だぜー」