「もなか」と名付けたエア猫を、月子は心から愛でた。生前注がれなかった愛情を、満たしてやるべく。

エア猫ことソウル・キャットは、飼い主に捨てられたり虐待・放置されたりして命を失った、哀しき猫たちの魂である。

あの日、月子は青年からそう説明を受けた。

ソウル・キャットを受け入れることは、この世に彷徨(さまよ)う猫たちの魂を救い、成仏へと導くための、非常に意義のあるボランティアなのだと。

「こんにちは」

ある休日の昼下がり、月子は青年に会うため久しぶりに、遠方のショッピングモールで開催中の譲渡会を訪れた。

「最後に、ご挨拶がしたくて伺ったのよ」

「ああ月子さん。お久しぶりです。お話は伺っていました。良かった、もなかも一緒ですね」

霊が見える能力を生かし、ソウル・キャットの運営をはじめたのだと語っていた青年。その言葉どおり、自分の姿を青年に認識してもらえたことに、もなかを抱いた月子は安堵した。

「ええ。おかげさまで、私と一緒にあちらの世界に」

もなかと月子の暮らしは、彼女の死をもって新たな形を迎えた。

 

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