どこまでわかっているのかわからないから、

「歳取るってどんな感じなの」

と聞いてみる。ビィは、

「う~ん」

と、しばらく考えて、

「わからない」

と言い、また、しばらく考えて、

「でも、哀しい感じがする」 

と言う。

「どうして哀しいの」

と聞くと、また、

「う~ん」と考えて、

「わからない」

と答える。しかし、ボクにはビィの言いたいことがわかるような気がしている。

どこかポヤッとして掴みどころがないビィとのこんなやり取りは、しかし、はっきりとした言語で成り立っていて、意味も音声も明瞭に伝わってくる。つまり、ボクたちは会話をしている。

横にいるビィをふっと見る。と、ビィはキョトンとした表情でボクを見上げている。ふと気づくとゾーンに入っている。そんなことが何回かある。こんなときは内側と外の世界の境界がなくなり、時間の感覚がなくなる。犬と話すことにも違和感がない。

 

 

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