どこまでわかっているのかわからないから、
「歳取るってどんな感じなの」
と聞いてみる。ビィは、
「う~ん」
と、しばらく考えて、
「わからない」
と言い、また、しばらく考えて、
「でも、哀しい感じがする」
と言う。
「どうして哀しいの」
と聞くと、また、
「う~ん」と考えて、
「わからない」
と答える。しかし、ボクにはビィの言いたいことがわかるような気がしている。
どこかポヤッとして掴みどころがないビィとのこんなやり取りは、しかし、はっきりとした言語で成り立っていて、意味も音声も明瞭に伝わってくる。つまり、ボクたちは会話をしている。
横にいるビィをふっと見る。と、ビィはキョトンとした表情でボクを見上げている。ふと気づくとゾーンに入っている。そんなことが何回かある。こんなときは内側と外の世界の境界がなくなり、時間の感覚がなくなる。犬と話すことにも違和感がない。

【イチオシ記事】一通のショートメール…45年前の初恋の人からだった。彼は私にとって初めての「男」で、そして、37年前に私を捨てた人だ
【注目記事】あの臭いは人間の腐った臭いで、自分は何日も死体の隣に寝ていた。隣家の換気口から異臭がし、管理会社に連絡すると...