取りあえずは農道の先の小高い山を目指して歩いた。道は記憶にある畦道よりもずいぶん長く感じられた。道の先にあるはずの祠も記憶の中のそれよりも遙かに遠かった。しかし、歩けば何かがあるような気がした。歩を進めるごとに祠の記憶は現実感を失い、漠とした記憶はますます希薄になった。歩き続けているうちにあれが現実だったのか夢なのかわからなくなった。ボクは歩を速めた。某県のある海沿いの町に、今は住む人もない家が…
[連載]伊豆の御社
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小説『伊豆の御社』【第4回】ほそや まこと
消え去るひとりぼっちの男の記憶。 来歴不明、係累も辿れぬ男が生きた痕跡は、世界から消え去っていく。
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小説『伊豆の御社』【第3回】ほそや まこと
かつて目にした祠を目指してひたすら山道を歩く。何かを隠すように建てられた「立ち入り禁止」の看板。あの時目にした祠は一体...
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小説『伊豆の御社』【第2回】ほそや まこと
時々、ここが本当に元いた世界なのだろうかと考えることがある。狐に化かされたようだと思ったあのときの気持ちがふと蘇る。
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小説『伊豆の御社』【新連載】ほそや まこと
ボクの家はさほど街中でもないし過疎の田舎でもない住宅街の一画にある。家を出てすぐの緩い坂道を上ると空気の澄んだ日には左手に三浦半島、右手に伊豆半島が淡い紫色のシルエットを浮かび上がらせる