木々のささやき
コニファー
育ち上がった木は広いウッドデッキの三分の一を占領し、このままいくとその重量で華奢な造りのデッキを潰しかねない。やがて、一人では動かすことも出来なくなり、結局、ボクの手には負えなくなった。考えたあげく、近所の植木屋に処分を頼むことにした。
ボクとしては、丹精込めて育てた木だから植木屋という職業柄、どこか他に植え替えるところや再利用出来る場所があるのではないか、木を植えることを生業とする商売だから他に何か使い道があるのではないかというつもりで頼んだのだが、そのあたりの説明が足りなかったのか、人伝てに頼んだこともあってか、その意向は当の植木屋には伝わらなかった。
植木屋は頼んでから二週間ほどで来てくれた。道具を広げ始めたので、ボクは深く考えず書斎に引っ込んだ。
しばらくすると、どこからともなく、「きぃぃぃ~」という悲鳴が耳の奥に響いた。生木を裂くような哀しげな声は金属音に近く、人の悲鳴に似ていたが、もっと即物的で、人の悲鳴とは少し違うようにも思えた。
一瞬、嫌な予感が頭を過よぎった。椅子から立って窓から外を覗くと、植木屋がノコギリで木の幹を切っている。
植木屋は手際よく作業を進めていて、もう、四本目の木の根元にノコギリを入れている。木はその足下で切羽詰まった断末魔の叫び声をあげ続けている。
植木屋なら他に何か使い道があるだろうというつもりで頼んだことだから、まさか無残に切り倒して処分するとは思わなかったボクは心のどこかで舌打ちをし、―しまった。と思い、しかし、この場面で躊躇した。
「木が悲鳴をあげている」と訴えても、誰にも、当の植木屋にも信じてもらえないだろう。それに作業はもう終わりかけている。―今更止めても遅い。
そう思って、しばらく逡巡した。ボクがあれこれ迷っているうちに、植木屋は五本目の木を根元から切り倒し、階段を駆け下りたボクが玄関から外に出たときには殆どの作業を完了していた。
北側のウッドデッキとデッキ回りの景観を作り上げていた木の残骸は細かく切り刻まれ、道路脇に駐めた軽トラの荷台に積み上げられている。