【前回の記事を読む】長年飼っていたボーダーコリーを亡くしたばかりの愛犬家の女性。慰めるつもりもあって犬の肖像を描き始めると…

不思議と出逢うところ ――ゾーン――

しばらく順調に描き進めていたが、右の脇腹を描こうとしたときに何故か手が止まった。その部位の毛並みがどうしても描けない。

普通に描けば何でもなく描ける部位なので不思議だとも思うがうまく描けない。他の部位の延長だと思って描くが絵にならない。

そういえば、マサヲの死因は右側の臓器の悪性腫瘍と聞いている。ふと、少し前に描いたボーダーコリーを思い出して複雑な気分になった。

もしかして何かメッセージがあるのだろうか、飼い主とは親しいからマサヲが伝えたいことがあるなら伝えてやりたいと思った。

右の脇腹を描いたり消したり時間をかけて何度も描き直した末、よくよく見ないとわからない程度には仕上がった。

概ね完成したと思った日の夜中、目覚めてトイレに立ったボクの目の前にふっと犬の集団が現れた。突然現れた犬の群れは三次元空間に投写したバーチャル映像のように無機質で実体がなかった。

それはアメリカ映画の『101匹わんちゃん』のような犬たちの集団で、大小様々な犬種の犬たちが五~六匹マサヲを囲んでいる。

犬たちは無言でボクを見つめている。吠えないし、何も言わない。夢かと思い、眠い目を擦ってみたが確かにそこにいる。

思い返すと身体が大きなマサヲは近在の犬たちとも仲が良くて、親分肌で面倒見が良かった。

公園など飼い犬が集まるといつもその群れの中心にいたという印象がある。寝ぼけ眼で用を足したボクはすぐにベッドに戻った。と、