「キャンプではあんなに仲が良かったのに」という声が聞こえた。その夜は言葉の意味がわからず、ぼんやりと、
―いったい何のことだろう。
と考えながらそのまま寝てしまった。翌朝起きたとき、その言葉が脳裏に蘇り、
―いったい何のことだろう。
とまた思った。よくわからないまま、結局、記憶の隅に追いやった。しかし、何日か経ってからふと思い出した。
マサヲが生きていたころは皆でよくキャンプに行った。富士五湖畔にドッグオーナー専用のキャンプ場があって、春から秋にかけて、特に、夏には犬連れのキャンパーたちが集まる。
森と湖に囲まれたキャンプ場には犬用の洗い場やシャワー、その他の設備が完備していて、自然の中で自由に遊べるから犬も喜ぶし飼い主も楽しめる。我が家のビィや秋田犬のマサヲが生きていたころは夏になると誘い合わせてよくテントを張った。
声をかけるのは近所の犬友達で、毎年四~五組の家族が参加した。皆に声をかけたり、キャンプ場の予約を取ったり、場所を確保したり、テントやタープを張ったり、用具を整えてバーベキューをしたりと、そうしたことの中心にいるのはいつもマサヲのオーナーである友人夫婦で、二人ともマサヲをよく可愛がり、仲の良い夫婦に見えた。
記憶を遡り、マサヲの言葉の意味を考え、ふと、うまくいっているのだろうかと心配になった。親しいとはいえ、夫婦間のことだからあまりストレートには聞けない。
絵の話にかこつけて夫である友人に遠回しに聞いてみた。と、一ヶ月ほど前に派手な夫婦喧嘩をして以来、今も冷戦状態が続いているという。