一仕事終えた植木屋は、やがて、幾ばくかの代金を受け取ると残骸を荷台に積んだ軽トラを運転して機嫌良く帰り、あとには空の植木鉢が五つ残った。
―こんなつもりではなかった。
その場に呆然と立ち竦んだボクは、圧倒的な無力感に打ちのめされた。そして、こう
言い聞かせた。
―これは過失だ。
グミの木
家は急な普請だったから設計も工事も設計事務所と業者任せで、玄関の配置や部屋の間取りなどじっくりと考える暇もなく、ましてや、家相判断や風水などに気を遣うこともなく、北東の玄関は〈鬼門〉として嫌われるという風説を聞いたのは既に着工してからのことだった。
そもそも、家相判断はもとより古い言い伝えや迷信めいた話はあまり気にしないほうだったし、たまたま手に入れた土地の地形上の制約や、着工後に建屋の配置や基本設計を動かすのは難しいといった事情もあって、玄関は当初の設計案通り北東向きになった。
離婚や住所変更に伴う手続きは煩わしく、しばらくは生活の変化と引っ越しに伴う雑事に忙殺され、新しい環境に慣れるのにも時間がかかったから、越してしばらくは呆然と時を過ごした。
しかし、移り住んで二~三ヶ月が経つと身の回りの細かいことや住環境が気になるようになった。
少し落ち着くと竣工した木造家屋は木の香りがして気持ちが良かった。裏の玄関先と表の南側のベランダ脇にはそれぞれ四~五坪ほどの小さな庭があった。
長年のマンション暮らしで庭のない暮らしに慣れたボクには、居間や階段や寝室に漂う木のぬくもりは心地良く、庭のある生活はどこか贅沢な感じがした。
引っ越したときのまま手を入れていなかった庭は造成時の赤土がむき出しのままだったが、そのままではあまり殺風景なので、まず、芝を張って木など植えようと思い立ち、近くのホームセンターの植木売り場に出かけた。
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