【前回の記事を読む】邪気を喰らうようにすくすくと大きくなる木。木へ抱いた嫌悪感は確信から恐怖へと変わり、「木を処分してくれ」とヒステリーを起こした。
木々のささやき
グミの木
その日の夕方、突然、
「ぎゃぁぁ~」
という、凄まじい悲鳴が耳の奥に響いた。
切り裂くようなその悲鳴は恐怖と怨念と恨みと憎悪と執着と、およそ人の持つ全ての悪しき感情を含んだおぞましいもので、ボクはその戦慄に満ちた叫び声に耳を押さえ、それでも止まない叫び声は頭の奥に反響した。
その悲痛な断末魔の叫びは聴覚に直接響いたのか胸の奥に感じたものかははっきりとしない。でも、それはボクを驚愕させ、覚醒させ、今、何かが起きていることに気づかせた。
ボクは立ち上がり、その甲高い悲鳴を耳の奥に感じながら、南側の書斎を出、玄関側の窓から外を覗いた。玄関に通じる階段の上り口にある郵便ポストの裏にあったグミの木はなくなり、そのあとには小さな切り株が残っている。
階段下の駐車場では、切り倒したばかりの木の残骸を切り刻んで小分けにし、車に積んでどこかに運んでいこうとする二人の姿が見えた。切り刻まれた生木のそこここに命の切れ端を残すグミの木は、弱々しく、しかし、未練がましく、恨みのこもった叫び声をあげ続けている。
その光景から目を背け、窓を背にしたボクは、今、あのおぞましい生き物を殺したのだと思い、しかし、何かホッとしたような、どこか後ろめたいような、奇妙な感覚の中に立ち竦んでいた。