『古事記』『日本書紀』には、朝廷へ恭順しない土着豪族への蔑称に「土蜘蛛(つちぐも)」または「都知久母(つちぐも)」の名が見られる。『古事記』中巻(神武天皇)における「生尾土雲(つちぐも)【訓云具毛(ぐも)】」を読み下すと「尾の生えたる土雲【雲を訓みてグモと云ふ】」となり、わざわざ訓注を入れ濁音で読ませている。

「天雲」を「雨麻久毛」や「阿麻久毛」と上代においては清音で読んでおり、あえて注も入れていないことと比べると、その違いは明らかであろう。

そもそも「たかまがはら」が、上代には存在してはいなかったことは、西宮一民らの研究でも明らかである。

西宮は、上代人の「天」の結合単位について四型に分類した注2

「天」(アマ)は、

A安麻賀気利(アマガケリ) アマ+動詞

B安麻久母(アマクモ) アマ+名詞

C安麻都美豆(アマツミヅ) アマツ+名詞

D安麻乃波良(アマノハラ) アマノ+名詞

との四型があり、特にD型が最も多く、神代紀から、阿摩能与佐図羅(アマノヨサヅラ)、安麻能左愚謎(アマノサグメ)等、『万葉集』から、安麻能之良久毛(アマノシラクモ)、安麻能波良(アマノハラ)、安麻能見虚(アマノミソラ)、安麻乃日嗣(アマノヒツギ)等、詳しく例示している。

「天原」はまさしくD型の「アマノハラ」であり、まして「アマガハラ」ではないこと、従って、「タカアマガハラ」という形は本来なかったことを強調している。


注1 『本居宣長』日本思想体系40 校注 吉川幸次郎・佐竹昭広・日野龍夫 岩波書店 1978

注2 『古事記の研究』西宮一民 p174~175

 

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