上映された映画はアメリカ映画の西部劇だった。キスシーンはカットされている。映画はそれなりに楽しめたが、これが従業員の唯一の娯楽と聞いて、
「うーん、この生活を何年も続けるちゅうのはかなり大ごとばい」
と、井原がつぶやいた。
映画が終わったらあとは寝るしかない。
「寝酒がないけん寝られんかも知れん」と二人は言いながら、それぞれの部屋に戻った。
翌朝七時に運転手がレンジクルーザーで二人を迎えに来た。ぺットボトルの水がたっぷり積んである。命の水だ。昼食分としてレストランでサンドイッチをもらった。
目的地のない、砂漠の中をさまようドライブに出た。トラックが通りそうな方角に行ってもらう。砂の中にポツンと黒点が見える。「あっ、あれはタイヤじゃないか」と加藤が叫ぶ。寄ってみると確かにタイヤだが小さい。メルセデス大型トラック用のサイズではないが、加藤は丹念に点検する。
そして更に砂上をさまよう。
また遠くに黒点が見える。寄ってみると確かにタイヤだ。しかも目的のメルセデス大型トラック用のサイズである。加藤は車を降りると跳ねるようにタイヤに近づく。ドライバーが「サソリに気をつけろ」と叫ぶ。サソリはよくタイヤの下に隠れているらしい。
加藤がタイヤをなめるように点検し、その結果を語る。それを井原がメモする。
そして、重量が八〇キロぐらいあるタイヤを二人でゆっくり持ち上げてひっくり返す。運転手がまた「サソリに気をつけろ」と注意する。
そしてまた加藤が点検する。
「君はさながらタイヤ検死官だな」と井原が感心したように言った。
次回更新は7月4日(金)、21時の予定です。