翌日、くるみはいつものように始業時間の9時に出社してきた。デスクにバッグを置いた瞬間、おはようございます、という先輩の声が響く。

(……今日もかっこいい)

思いを寄せる先輩のデスクは隣の島だ。ここからでも十分に見える。くるみは自分の担当する案件の広告ラフを開いて、データを確認する。

(ここはもう少し、色がぱきっと出てたほうがいいかも……。ここのフォントをもう少し大きくしたほうがいい気がするけどな……)

「おい、水瀬。ちょっと来てくれるか」

「はい」

打ち合わせの時に確認したいこととしてメモしていると、部長に手招きをされてしまう。くるみはすぐに表情を切り替えて部長のデスクにやってきた。

「おはよう」

「おはようございます」

「うちの会社が、今度の期末で20周年になるのは知ってるか?」

「ああ、はい。知ってます」

先日20周年を銘打ってキャンペーンをしようかと、マーケティングチームのメンバーが話しているのを聞いた。

社員数はじりじりと伸びて80名弱。今年で3年目になるくるみも、中堅ポジションくらいにはなったかもしれない。