約束の日、ジンはその導師を連れてきました。導師の顔はしわだらけで髪が伸び切っており、身なりも汚く、足元もおぼつかない今にも倒れてしまいそうな老婆でした。
普段は山奥に籠っており、俗世から離れていましたが、ユンの力になってほしいとジンから頼まれ、連れて来られたのです。ユンは明らかに顔を歪め、導師を忌み嫌う様子で冷たく言い残しました。
「そちは雨を降らせるだけでよい。余計なことはするな」
導師は何かを言いたげにため息をつき、祈りを捧げるかの如く、怪しげな儀式に入りました。暫くすると王宮の周りから雲が広がり、なんと雨が降り始めたではありませんか。
誰もが驚き、暗雲立ち込める町でも久方ぶりに民達の歓喜の声が聞こえてきます。導師はユンの元にやってきて、このようなことを告げました。
「聞くところによれば、王様もかなり苦しんでいるようですね。然し、王たる者、そのような苦しみや憎しみ、誘惑に負けず、当初抱いていた民への真心を思い出すのです。
辺りを見渡せば意外と敵ばかりではないはずです。周囲を律し、己を律し、王様が善政を全うできるように私にもお力添えさせていただきたいのですが、信じてくださいませんか」
その場にいた誰もが胸を打たれたかと思われましたが、ユンの心の中は茨のように刺々しく複雑に絡み合っていました。ユンは歪んだ笑みを浮かべながら拍手をして、導師に近寄りました。
「まこと雨を降らせるとは大儀であった。今日のところはお帰りになってお休みください。またお呼びします」