ずい分先の話だな、と加藤はがっかりしながら、タイヤの頭をなでて、

「また来るよ。それまで頑張って走ってくれよ」と語りかけた。

彼はその日の夜のチャーター便でアルジェへ戻った。

翌日七洋商事アルジェオフィスを訪問し、北山所長と大田原所長代理にテストタイヤの現状と共に、フランソワタイヤ・サハラXの実態も報告した。

テストタイヤの砂上走行性能が受け入れられていることは朗報だが、一方、耐久性評価にはまだまだ時間がかかりそうとのことで、二人とも落胆の色を隠さなかった。北山は、

「夏ごろには石油公団よりタイヤの国際入札が発表されそうです。それまでにテスト結果が出るといいですね」と柔和な顔で言った。

加藤は申し訳なさそうに、

「私も早く結果が知りたいのですが、今のところ結果がある程度わかるのは早くて秋ぐらいになりそうです。リビアの砂漠でもこの新スペックのテストをしていますので、この結果の方が早く出ると思います。それを石油公団に報告する手もあるかも知れません」と答えながら、遠い砂漠の中で走っている自社タイヤの無事を祈った。

親が旅立った子供の無事を祈るのと同じような心境か。

こうして加藤にとっての初のアルジェリア訪問を終えた。

アルジェ空港を離陸後上昇を続けていた機が水平飛行に移り、シートベルト着用のサインが消える。

加藤はシートをほんの少し後ろに倒し、くつろいで窓の外を見た。満天の星が輝いている。イヤホンを耳にさせば、曲名は知らないが懐かしいエレキのサウンドが流れてきた。

あの星は日本からも見えているはずだ。そういえば、あの時のバンドの仲間はどうしているだろうか?と、入社間もない頃のことがふと思い出された。