なぜ、ティーナの前で鹿を狩ったのかわからない。自分でも少し疑問が残る中、ティーナを連れて鹿の方へ行った。鹿を解体して、いつものように昼ご飯を作った。しかし、ティーナは鹿を少し残した。仕方のないことだ。自分が殺さなかったら生きていたはずの命を食べているのだから。特に、子供は物や生物への執着心が強い。ぬいぐるみなんてまさにそうだ。

「食べない?」

「ううー」

首を縦に振って、もう一度スプーンを握りなおした。しかし、そう言いつつもあまり食が進まず、残った分はナギサが食べた。

「……ティーナ、ちょっとお昼寝しよう」

「ん」

ティーナは、昼ご飯を食べるとすぐに寝た。いつもなら夜八時くらいに寝ているが、今日は顔色が悪かったから、早めに寝かせた。

ティーナが眠っているベッドの横で、ナギサは膝を抱えて考え事をしていた。

どうして、ティーナを見ていると温かい気持ちになるんだろう。なんでティーナにここまで良くしてしまうんだろう。愛着、というものは考えにくい。自分はロボットだし、感情なんてものがない。知能とか、人並みの思考力とか、そういうものはあるけれど感情を感じたことはない。ロボットに感情があったら制御が大変だし、そもそもそんな機能つけるわけがない。

「わからない……」

すやすやと眠るティーナを見つめながら、夜通しずっと考えても答えは出てこなかった。

「……ナギサ、ナギサってば!」

曖昧な意識の中で聞こえる声を無視しながら、目をつぶったままにしようとすると、その声の主は声を荒げた。

「ナギサ! 起きて!」

「……起きる、今起きるから」

視界が開けると、そこには成長したティーナの姿がある。

「なんかいい夢でも見てたの? 珍しく笑ってるね」

あぁ、笑っていたんだ、私……。

ナギサは自身の手を握り、自分の体が動いていることを確認した。

あれから、十年。