【前回記事を読む】「よく見ていて…ライフルはこうやって使う」――野生のシカに照準を合わせ、引き金を引くと、鋭い銃声が空気を切り裂いた。
第一章 ロボットと少女
どうしてこの子を
今日は、三百年前、「渋谷」という名前だった場所に行く。前まではスクランブル交差点にたくさんの人たちが集まり、時にはその人口故に死者まで出ていた場所だ。しかし、今となっては信号も見受けられず、数十メートルの木々が生えている。それでも、ビルはまだ多く残っていて、面影を残している。
「シブヤか……前にナギサが話してくれたよね、前までは人でにぎわっていた所だったんでしょ」
「よく覚えていたね。もう数年前のことなのに」
「まあね。あーし記憶力はいいから!」
自慢げに言っているが、これは自他共に認める事実だ。ティーナは異様に記憶力がいい。ナギサが教えたことは全部覚えている。数十メートルはある木々が生えた川沿いを進みながら、なんてことない雑談をする。
「そういえばナギサ、洗濯物取り込んだっけ? この空模様だともうすぐ雨になりそうだよ?」
「……まっずい、忘れてた」
「え……じゃあ、雨に濡れたまま放置して、戻ってくる頃には……」
「臭くなっているね……」
「嘘でしょぉ……」
渋谷への道のりは、まぁまぁ遠かった。少なくとも、一泊はするだろう。しかし、全く苦ではなかった。ティーナのおかげだ。本来ならきつい道のりも、ティーナがいるから少しマシになる。
「暇だからさー、しりとりしよ」
「りんご」
「ごま」
「まくら」
「ら? らー……ライフル」
「物騒な言葉だね。じゃあ、ルール」
「る? る、ルビー」
「ビール」
「び、びーる? なにそれ」
「アルコールだよ」
「ん~……あ、ルアー!」
「アイドル。はい次『る』」
「る、る……わかんないよ!」
「じゃあ、私の勝ちだね」
「る攻めはずるいよ」
「これもひとつの戦法だよ」
「ずるいっ! 卑怯っ!」
そんなことを話していると、ビルが立ち並ぶ都会だった所にまで着いた。