いきなり出てきた涙の理由を必死に考えた。涙が出るような悲しいことが、なにかあったか? そもそも自分に、涙腺なんて搭載されているわけがない。不要なものだ。そんなもの。

(なんでよ……)

「……あ、゛ああ゛あぁああ」

『もう、やだよぉ……こんなの、やだ……助けて、お願い……』

「あっ……」

突然、頭に流れ込んできた声。一度、声を聞くと、霞(かすみ)が晴れるようにその情景が浮かんでくる。自分に泣きついてくる女の子の声。それも、子供の声だ。年齢からは考えられないほど悲痛な叫び声。

私じゃない、誰か、大切な人……

「……そうだ、そうだよ」

思い出してしまった、全部。今まで引っかかっていた不思議なことが全部、わかってしまった。

『見てみて、あれ流星群だよね? すごいよ……って、ナギサってば! 聞いてる?』

『ナギサ、いつもありがとうね。あーしのためにここまでしてくれて』

ナギサは、今まで過ごしてきたティーナとの十年間を思い出す。太陽のような眩しい笑顔を自分に向けるティーナの声と、遠い記憶の彼方で泣きじゃくっている少女の声がぐちゃぐちゃに混ざる。

〝自分がしなければいけない事〟が、苦しい。今までなんとも思っていなかったのに、こんな時になって、苦しくなる。

やりたくない。もっと、もっとあの子と一緒に居たい。

だけど、無理だ。

「どうすればいいのよ……」

後日、ナギサたちは渋谷に着き、二日ほど探索した後、家へ帰った。そして数か月後、突然、ナギサが「行かなきゃいけないところができた」と言い、スカイツリーを目指すことになった。 

次回更新は6月16日(月)、12時の予定です。

 

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