「ああ、そうだった。ブーメ大統領はフランス離れを強力に推し進めるために、フランスからのあらゆる物資の輸入を禁止する方針を打ち出そうとしているらしい。まだ噂の段階で確証はつかんでいないが、もしそうであるならば我々七洋商事としては大きなビジネスチャンスとなる可能性がある。これを逃してはならない」

「そうですねえ、いろいろやれそうですが、大田原さんとしては先ずどんな商品を考えておられますか?」

「選択肢は多いが、我々のキャパを考えると、やはり商品を絞り込まなければならない。可能性の高いものといえば、例えばタイヤだ。フランスには〈フランソワタイヤ〉という強大なメーカーがあり、このアルジェリア市場をほぼ独占している。これに代わり得るタイヤメーカーを、政府の輸入担当局は大至急物色しているらしい」

「フランスのフランソワタイヤというのは、私も知っていますが、あのメーカーは世界中に生産拠点を持っていると聞いています。だからフランスからの輸入が出来ないのなら、フランス以外から持ってくればいいのではないでしょうか?」

「いい突っこみだ、井原君。その通りなんだがそうはいかない。フランソワタイヤというのはフランスそのものと位置づけられているらしい。そうするとどこから持ってきてもダメとなる」

「なるほど、わかります」井原は納得の表情で頷き、

「フランソワタイヤに代わり得るタイヤメーカーはいろいろありそうですね」と、楽観したように言った。すると大田原の雷が落ちた。

「君は何もわかっていないのにわかったような顔をして言うな。そんな簡単なものではない!!」

井原は驚いて、

「あっ、す、すみませんでした」と慌てて頭を下げ、

「フランソワタイヤに代わり得るタイヤメーカーはどこでしょうか?」と、聞いた。