「息が苦しかろうが、僕にこう尋ねてくれ。『其(そ)はなにびとぞ』」
「そ……そ、は、な、に、び、と、ぞ」
「我はガイ・竜興・レイギッガア。今、我が命をつなげる」竜興の全身が、青白く光り出した。
虎太郎の体も青白く光り、二つの光は一つになった。その神秘的な光景を見つめていたゆきは、やがて光が消えてゆくのを目を大きく開いて見続けていた。そして、
「お、お前さん!」
と叫ぶが早いか、気持ち良さそうに眠っている虎太郎にしがみついた。
「お前さん、お前さんたら!」
虎太郎はがばっと起き上がった。
――今、我が命をつなげる。
確かに聞いた、涼し気で凛とした竜興の声。
「ああっ! 何てこった!」
虎太郎は自分の隣に倒れて石のように動かなくなっている竜興を見つけた。その制服の背中は大きく裂け、血がどくどくと流れている。そのかたわらの千鶴の頬には一筋の涙が流れていた。
千鶴はエリスに戻り、ペンダントを取り出して左右に振り始めた。
「地球の人々よ。わたくしたちのことは忘れてください」
ペンダントが、カッと緑色の光を放った。工事現場の上空に、エメラルドグリーンのオーロラが現れた。虎太郎もゆきも初めて目にするものだった。
エリスは振り返った。虎太郎たちの頭上にオーロラはなかった。ガイと自分のことを、この二人にだけは覚えていてほしいとエリスは願った。
エリスは、虎太郎とゆきを見た。
「お二人とも、末永く、おすこやかに」そう言うと、帽子から「レイギッガアの翼」を一つ外して、兄の襟元につけた。
「レイギッガアの翼、第一翼、第二翼、起動せよ!」
その言葉と同時に、エリスの背中に水色の大きな翼が出現し、優雅に閉じては開き、開いては閉じた。
ガイの背中にも翼が開いた。流れる血を浴びて紅くなった翼が、エリスの翼と同じように羽ばたいた。
「お兄さま、参りましょう」エリスが兄の手を取った。
「虎太郎さん、ゆきさん、ごきげんよう」
ガイとエリスは、夜空へと舞い上がった。
エリスは翼を自分の体の一部のようにあやつっていたが、ガイのほうは、翼が何かの荷物を運んでいるように見えた。