〈はじめに〉

わたしは北海道で地域住宅雑誌Replanを創刊した三木奎吾と申します。

地域住宅雑誌Replanは創刊から36年。北海道をベースに東北・関東・関西と徐々にエリアも拡大し「今」「その地で」求められる住まいのありかたを、デザイン・住宅性能・暮らしという側面から、住まう人と建てる人、両方の意見と声を実際に聞いてお伝えしてきました。

この住宅雑誌ビジネスについては2023年9月に事業承継者にバトンタッチして、わたし自身は高齢期を迎えての進路変更。

この住宅雑誌を刊行、事業を経営している間、約20年「ブログ」を毎日欠かさず書き続けてきました。

ブログはやはり住宅建築のテーマを主としており「人と住まい」というテーマで書いているうちに内容も深掘りされてきて、全国の文学や絵画、その他の表現の「作家」たちの住空間をも探訪するようになりました。そしてその「取材記」をブログでも現場感覚のままに書いてきました。

その数は発表したもので十数人、未発表のものは30人以上になっています。

数々の名作を生み出した作家の住空間は、その主体である作家の人間性がその場で涵養(かんよう)された、あるいはその個性が染み込んだような独特のたたずまいを感じさせられるものでした。

そこでしか感受できない「空気感」と人間性のようなものが深く心に沈殿してきていました。

言ってみれば、残された空間から想像力を広げながら、その作家の個性・人間性を掘り起こすなかで「ときめき」感という心象が湧き上がってくるのです。

本書では、現地で撮影した画像と関連して収集した画像を交えながら、取材を通して感受した作家たちの「息づかい」までを表現し、まとめたいと思った次第です。

長年住宅取材にベースを置いてきて、そもそも建築としての住宅とその住まい手との相関関係が主要な興味分野ということもあり、住まい手の生き方、暮らし方に興味が深まっていきます。

これまでの住宅雑誌の取材では、個人情報への配慮から個人の内面領域には関わってきませんでしたが、自分自身、多くの住宅、そして住空間を見てきた次のステージとしては、そういう深い領域にも思考を踏み込ませてみたいと思っています。