【前回記事を読む】北海道で住宅性能をアピールしても響かない!? その理由は寒冷地域と温暖地域では「いごこちの科学」の発展が違うから

九十九里の草庵「芥川荘」 芥川龍之介

【温暖地のいごこち、空間性の科学】

明治以降、本州以南地域から移住してきた北海道民にとって、「内地(ないち)」〜本州以南地域を指す北海道独特の表現〜の人にとってはあまりにも自然そのものなのだろうが、その「快適性」の引き立て要素としての住環境条件そのものや建築的装置について、目を向けてみたくなったのだ。
 

やはり茅葺き屋根による日射熱防御と軒の出による直射日光遮蔽、そして高床的な床下通風と北側以外の三方向の「全開放」による「自然通風」が最大の民族的経験知と思える。

茅葺きの熱環境効果についてはいろいろな研究が挙げられるように、確実な断熱・湿気蒸発効果が認められる。長い民族史の中で建築の匠たちによる実証研究の結果、こうした到達点に至っていた。

一方で「自然通風」による快適性効果については、たしかに温暖地ではその温・湿度とも最高快適域に接近していて「うっとり」「ぼーっ」とさせられるレベル。

わたしも強い日射・高温環境の中、この芥川荘で家の中こそは天国に一番近いと認識させられた。むしろこういう「快適」の数値的解析、定量的把握をこそ「科学してほしい」と思わされた。不快の根絶からむしろ、最高の快適域の「見える化」へ。

〈芥川荘の室内から防砂林側・縁を見る 筆者撮影〉


そして民族の知恵はやはり室内だけではなく外部環境全体にまで及んでいる。この芥川荘は九十九里の浜辺からは数百メートル離れているけれど、その緩衝地帯には防砂林のように緑地帯が設けられている。

庵の南側にはしっかりと生け垣も造作されていて、室内側からも常に「目に優しい」緑が人間を護ってくれている。こういう「見た目」の快適感・その刺激要素についても、もっと科学分析してほしいものだ。

ある温度領域環境で、そこに吹きわたる通風が、肌の発汗作用に対してどのように関与して、除湿作用をもって肌に「快適な乾燥感」を与えるのかなど、温度と湿度の人感的な科学解明を示してほしいと思う。

こうした植物群の積層を通りわたってくる浜風は、その空気感がまた格別であるに違いない。ただでさえ心地よい通風感である以上に、微妙な草花たちの息づかい・におい、温度感・湿度感もそれに加わっているのだ。

伝統的日本家屋の内と外との中間領域の「いごこちのよさ」こそが潜在的な伝統住宅大好きポイントではないかと思える。これは北海道人としても同意できる。

陽だまりの縁側でうたた寝するような快適感は、温熱・体感性とももっと科学的に論議すべきだ。寒さから人間を守るのは当然の志向性として、さらに「無上の快適感」も科学されるべきではないか。

多くの「民族伝統」としての表現、俳句などの感性表現などからも解析するポイントは出てくると思われる。むしろ科学解析にはほど遠い感受性部分について、それらを数値化し、もって環境工学の対象と認識する必要があるのではないか。いごこちの科学。