【前回の記事を読む】クリスマスパーティで僕は初対面の彼女に一目惚れした。彼女は姉貴の友達で……
第4話 13.Feb チョコレーション
母さんはもう3年も前に名前も覚えたくないような血液の病気で亡くなって、親父は海外単身赴任が多くて今はベトナムにいる、カッコよさげに聞こえるけど、実際は小さな会社の営業職だけどね。その前はミャンマーに長く行っていた。
姉貴は、受験に失敗した後、海外赴任中の親父の家に転がり込んだりして海外放浪に近い生活をしていたけれど、今年に入り日本に戻って、ファッション系の専門学校に入った。僕と同じだね。同級生とはいえほかの3人より2歳年上で、姉貴は同級生の友達グループの中でリーダー的に振る舞っていた。
母さんに病魔がとりつく前は、母さんと姉貴は折り合いが悪かった。
姉貴は母さんから料理を教わる気なんて全くなくて、というよりアレルギー的な拒絶かな。代わりに、僕が料理を覚えたんだ。若い頃から評論家並みに料理好きだった母さんのために、親父は無理してリビングにつながる広めのアイランドキッチンのある家を選んだ。僕はそこで母さんから結構料理を学んだ。
大学を中退してから僕は、中学や高校の友達は敬遠していた。君にもわかるだろ。もちろん大学にほとんど行かなかったから、そこには友達はいない。だから今、唯一のダチは、岸田拓也君なんだ。
バイト先の居酒屋でシフトが一緒で、帰りの路線も同じだったので自然と親しくなったんだ。生活時間のパターンが同じで、バイト終わりで飲んだりしているうちに、つるむようになって、酔った勢いで一緒にフェスのサブスクに登録してますます腐れ縁になってしまったわけ。
君は岸田拓也なんて名前を聞けば、何かカッコいいイメージを抱くかもしれないけど、僕のダチの拓也は、Netflixの韓国ドラマのイケメン男子の逆ベクトルにあるような男で、炭水化物マシマシのノーファッションの少し汗臭いようなタイプなんだけれど、ただ本当、信じられないことに、彼には可愛い彼女がいるんだ。
スマホの待ち受け画面の彼女を見て「コスプレーヤーかよ」と冗談めかして言うと、拓也は真顔で「そうだけど」と答えてそれが彼女だと言ったんだ。衝撃だったね。来月は一緒にビッグサイトに行くとか言ってる。